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紅茶専科

紅茶は多くの人に愛されている飲み物ですが、その消費はほとんどペットボトルの紅茶です。ペットボトル、ティーバッグ、続いて水出し紅茶、リーフティーの順に消費者には受け入れやすいのではないでしょうか。

今回は紅茶を提供する側から批判が多いペットボトル紅茶と紅茶業界の話です。この記事でも批判を書いていると思った方は多いんじゃないでしょうか?

記事はロンドンティールーム マスター 金川宏へのインタビューをもとに、編集部で内容をまとめています。

紅茶を取り巻く人たちは大きく二つに分かれます。当店のように「紅茶を提供する側」と、ペットボトルを購入したりお店に来ていただいたりする「紅茶を提供される側」です。

よくペットボトルの紅茶について「紅茶を提供する側」の中で「邪道だ」といった意見であったり、「あんなのは紅茶じゃない」といった意見を口にするところを目にします。
ペットボトルの紅茶には確かに香料や保存料が含まれています。紅茶本来の味を楽しむにはリーフティーのほうが向いているのも間違いないでしょう。ただ、このペットボトルは紅茶じゃない、という意見には疑問を感じます。

まずストレートに書いてしまうと、いくらペットボトル紅茶を批判しても、ただの僻みになってしまいます。「紅茶を提供される側=筆者を含めいわゆる一般的な人」に受け入れられているのは圧倒的にペットボトル紅茶なのですから。また今日の美味しいペットボトル紅茶があるのは、開発に専念した研究者の努力の賜物です。努力を省みず、ただ批判ばかりしていも何も変わりません。私達提供する側が一度原点に戻るべきじゃないでしょうか。

美味しいものに人は感動を覚えます。美味しい紅茶を体験してもらえれば感動するはずです。長らく紅茶業界では「いい紅茶」を出すことにこだわるお店が多いのだと思います。良い茶葉、珍しい茶葉、希少で高価な茶葉を薦めすぎているのではないかと思います。紅茶専門店と聞くと、いろいろな種類の紅茶があり、オススメのダージリンがあり、希少なアールグレイまで取り揃えていて、お客の好みにあった「いい紅茶」を薦めてくれる、というイメージのある一般の人が多いと思います。

そのため、まずご家庭で専門店の味を再現したいと思う紅茶好きの人々がさまざまな珍しい茶葉や有名ブランドの茶葉を家で試し、やっぱり専門店の味は出ないなぁ、と思いながら自己流の淹れ方で紅茶を飲み、友人に勧めるということが続いて、そのうちにペットボトルの紅茶が高品質のものや珍しいブレンドを発売するようになり、単純に紅茶専門店でしか飲めなかった紅茶が気軽に飲める、という図式になってしまいました。

本来、紅茶専門店が出すべき紅茶は「美味しい紅茶」です。飲む側の立場からすると、「美味しい紅茶」を飲むことで感動を覚えますし、決して希少な高い紅茶=飲んで感動を覚える紅茶というわけではありません。美味しい紅茶を提供し、広くご家庭でも美味しい紅茶を入れることができるよう情報や手法を広めることに当店は長い間力を入れてきました。

一般的な方に紅茶を魅力を伝える紅茶教室でも同じです。さまざまな珍しい紅茶を利き酒のように並べ、味を比べるといった紅茶教室もありますが、たくさんの紅茶を飲み続けることが美味しい紅茶をいれるために必要なことではありません。たったひとつの紅茶、たとえば専門店ではどこでも一般的においているセイロンティー(ディンブラなどの茶葉)をきちんとした淹れ方で淹れる方法さえ教えれば、飲む方からすると紅茶はこんなに美味しかったのかと感動を覚えます。広げるべきは珍しい紅茶の知識ではなく、誰でも美味しい紅茶を淹れる手法です。

当店で一番飲まれている紅茶はロイヤルミルクティーやミルクティー専用のイングリッシュブレンドです。これは別に希少で高価で有名な茶葉をブレンドした紅茶ではありません。英国の一般家庭で飲まれている普通のミルクティーを日本で再現したいという思いからブレンドされた、「普通のミルクティー」なのです。当店では希少なダージリンや有名ブランドのアールグレイではなく、このミルクティーが一番好まれています。

面白いエピソードがあります。オープンしたての頃、紅茶専門店だからということで5年間ほどコーヒーはメニューに載せていませんでした。ところが入店されるお客様の中には、ただの喫茶店だと思い、座るや否や「ホット」の一言だけのお客様も少なくはありませんでした。そうしたお客様に紅茶しか置いていないことを伝えると、帰ってしまうことがほとんどでした。いわゆるレモンティーなどの紅茶を想像されたのではないでしょうか。

そこで当店では、「お金はいらないのでコーヒーの代わりに紅茶を一杯飲んでください」と伝えることにしました。この時出していたのがロイヤルミルクティーです。「じゃあ、だまされたと思って飲むよ」と言ったお客様の中で、およそ10人に8人はお代金を払っていただけました。ここまでですと何のことはないのですが、こういったお客様が1週間や2週間後、今度はご友人などを連れて来店してくれるのです。注文の際には、「名前は何だか忘れたけど、コーヒーの代わりに出された紅茶。こんな紅茶があるのかとびっくりした」ということで友人を連れてきたくなる味だったというのです。

そういったことが続き、時間は長くかかりましたが、ロイヤルミルクティーを飲むために来店されるお客様が増えていき、今日のお店があります。また紅茶教室ではご家庭で美味しく淹れるための方法を教えたり、インターネットでレシピや動画を公開したり、お店で使っている茶葉をそのまま販売したりしています。レシピ通りに作れば(お湯の温度さえ守れば)、本当にお店と同じ味が再現できるのです。

紅茶は美味しいものです。感動を一度覚えたものに手間は感じなくなっていきます。美味しい紅茶を作る喜びも生まれます。そのため当店としてもレシピを隠さず公開していますし、材料も日本中どこででも手に入るように通販しています。できるだけ日常的に紅茶を淹れて飲む人が増えればいいのになぁと期待を抱いています。

もちろん珍しい紅茶が飲みたい時もあるでしょうし、ロイヤルミルクティーなどは鍋を使ったりするので毎日ご家庭で淹れるには少し手間です。夏は暑いのでお湯を沸かすには躊躇します。

そういった、たまには外で飲みたいなぁ、という時にはお店に寄っていただけるといいと思っています。週に一度お出かけするときでも、月に一度の買い物のついでにでも、そんなときに寄っていただける紅茶専門店でありたいと思っています。普段はご家庭で美味しい紅茶を淹れて楽しんでいただければ十分ではないでしょうか。

ご家庭では自分で美味しい紅茶を淹れ、休日には友人とお茶会をし、外で喉が乾いたらペットボトルで紅茶を楽しみ、ときどき紅茶専門店に立ち寄る。このようなバランスが今の時代に実現できたら、紅茶に携わる人間として嬉しいことだと思っています。

(ロンドンティールーム オンラインマガジン編集部)

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